【映画】アテナ(ネタバレあり)

Netflixで映画『アテナ』を観たからそのレビューをしようと思う。


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あらすじ

ひとりの少年が殺害された悲しい事件をきっかけに、激しい戦いの舞台と化したアテナ団地。その争いの渦中には、被害者である少年の兄たちがいた。

 

レビュー

面白かった。復讐をテーマに揺れる兄弟の様子が重厚に描かれている社会映画だった。

 

ネトフリはあらすじが抽象的過ぎるんだよなあ…

もうちょい掘り下げるとこう。

フランスのアテナという地区に弟、イディールが警察官に殺された三人の兄貴がいる。名前はそれぞれカリム・モクタル・アブデル。カリムはイディールの仇を討つべく民衆と共に警察に対して暴徒活動を行っている。モクタルは麻薬の密売人、アブデルは警察官として暴徒活動を行うカリムの身を案じていた。

互いに相反する環境に身を置いている彼らをよそに警察はカリムたちのアジトに強行突破を試みる…

 

冒頭10分のワンカットシーンをみると「あーカリムなのかな?主人公」となるのだが実はそうではない。俯瞰的に三兄弟を描いているから彼らが身を置いている環境がしっかり描写されているんだよね。異なる社会で生きているんだな…とある種のドキュメンタリーを見せられている気分になるくらいここの描写は上質に作られていた。

まあただ俯瞰的とはいえ、カリムとアブデルの勝負がメインである。モクタルはブツ(麻薬)かくしてもろて…という感じでモクタルそっちのけで二人が勝負している。

まあ対立している組織に身を置いているからこっちに焦点あてられているのは仕方ないとはいえ、モクタルのキャラはもっと冷酷非情でも良かったと思う。前半では情報を引き出すためなら暴力も厭わないキャラだったが後半渦中にある人物をかくまったりと妙に優しさがでていてブレがあるように感じた。

おまけにそこからアブデルに英雄が何だのとそそのかされているところが不必要性が目立っていてちょっと退屈だった。

ただ、アブダルとカリムの衝突は素晴らしかった。

やられたらやり返す主義のカリムと、復讐の空しさを知っているからこそ彼を改心させようとするアブダル。

ここらへんは復讐ものお決まりの「復讐しても亡くなった人は戻ってこない!」みたいな言い合いになっていたけど、このシーンで見てほしいのはカリムの動き。

暴徒活動まだまだこれからというときにニュースで「イディールを殺したのは警察官を模した極右集団」というニュースが流れていたのだ。カリムはニュースを見て涙ぐむ。

そりゃそうだ。今まで何のために暴徒活動やってきたのかわからなくなるからね。でももう民衆はノリノリ。もう引き下がることはできない。

だからこそアブダルが「お前もこちらに来い」と言いハグしたとき、しばらくつきはなさなかったのはカリムの心の弱さみたいなのがでてたんだなと思う。間違っていたらごめんなんだけど、そういうカリムの想いとアブダルの想いがぶつかり合う意味でも衝突シーンはかなり見ごたえあった。

だがアブダルの説得空しく、カリムは警察官に殺される。

そしてここからね、皮肉なことにイディールとカリムの関係性がズレるようにアブダルに移る。「警察官にイディールを殺されたと思い込み警察に復讐を誓ったカリム」から「警察官にカリムを殺されて警察に復讐を誓ったアブダル」へと主人公が変わる。

カリムを見向きもせず、逃げることを提案するモクタルを殴殺し、カリムに変わって民衆に命令をしていくシーンは鳥肌が立った。

ただ、やっぱりアブダルは復讐の空しさを解っていたんだよね。おまけに殺したのは警察官ではないときた。灰飛び舞う部屋の中、悲壮な顔を浮かべるアブダルはどこかミュージカル映画を彷彿とさせていたが彼の心のなかの暗い暗い感情がでていて非常によかった。

 

総評

以前から話題になっていた冒頭10分ワンカットシーンは勿論、民衆vs警察の描写が色濃くされており、そこに属する三兄弟の想いがぶつかり合う様子が非常に面白かった。

復讐がベースの作品には全くない「復讐の空しさを知るものが遺志を受け継ぎ復讐を目指す」という流れが個人的にとてもグッと来た。

ラストのイディールの死の真相の出し方と言い、展開やら何から何まで洗練された良い社会映画であった。

結局極右集団というのが…ね。

でもこれが作品を通してのメッセージなんだよね。都市伝説みたいな語り口調にはなるかもだけど、こうやって社会で起こっている様々な出来事は両者間ではない第三者的な存在の思惑が動いているのかもしれないってことを作品が伝えにきていて下手なホラー映画よりもぞくっとした。

そういった点でも社会のあらゆる出来事に「本当はこうなのではないか」と考える、リテラシーみたいなものが求められるなと思った。

とても良い映画であった。