映画『チルド」を観たからそのレビューをしようと思う。
※ネタバレあり
あらすじ
24時間灯り続けるコンビニ。
同じ商品、同じ挨拶、同じ作業。
繰り返される日常が、静かに狂い始める―
舞台は東京の片隅にあるコンビニ
〈エニーマート倉冨町7丁目店〉。
小さな社会で起きたわずかな歪みをきっかけに、
世界は終わりへと向かっていく。『チルド』は、短編『VOID』がロッテルダム国際映画祭などに選出され注目を集めた岩崎裕介の初長編監督作。主演は染谷将太。共演に唐田えりか、西村まさ彦、令和ロマン・くるまらが名を連ねる。
2026年ベルリン国際映画祭フォーラム部門に正式出品されると、上映は全回完売。国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞を受賞した。
“無限”の空間「コンビニ」に飲み込まれる
88分間のコンビニエンス・ホラー(公式サイトより抜粋)
レビュー
面白かった。観た後、今いる環境が怖くなる社会派に振り切ったホラー映画だった。
もともと監督がCMデザイナーの方だったから、ストーリー性はほぼ皆無と言っていいほどなかった。シーンの前後のつながりすら感じられなかったから、ストーリー性を求めている人は合わなそうだなと思った。ホラー映画にそんなこと求める人もいない気がするけど。
ただメッセージ性が凄い。そんなに伝えたいなら直接言いに来いよ。もはや映像を通しているのがばかばかしいくらいずっとメッセージを伝えてくるのだ。
だけどそれが好きなのでずっとにやにやしながら見てた。多分同じ列にいた、気取っている男子大学生よりも僕のほうが感じ取ってた気がする。サンダルでヤシの木の柄シャツ来ていた僕の方がずっとね。
①さかい(染谷将太)=脳死で生きている若者の象徴
染谷将太演じるさかいを中心に展開されてくのだが、このさかいが今の若者像に一番近いと言っても過言ではない。
まず第一に流されやすい。
同級生たちとの飲み会の際に、「さかいは?なんか面白い話ないの?」と振られ、「コンビニに一時間徘徊してパン一つしか買わない老人」の話をする。その老人の話を聞いた広告デザイナーの同級生が「もう年寄りになると人生のライフサイクルが食べることと寝ることしかない。だからある意味狩猟民族に回帰しているといえるよね」と一蹴するのだが、それを老人がコンビニで来店した際、後輩の小河(唐田えりか)に監視カメラを見ながら鼻高々に語るのだ。
本当に芸が細かい。こういう「頭のいい人の言葉」をまんまいう感じが自分の考えがなく空虚に生きている若者像を繊細に描いている。
二つ目が「言語化する力がない」ということ。
店長(長島竜也)が昔声優やっていた作品の一場面をさかいがイヤホンで聴くシーンがある。「どうだった?(僕の演技)?」と聞く店長に「あ~…なんか…いそう?」と答えるのだ。こういうところとか今の若者を等身大に描いているよね。その場を抜ける発言として言うんだったらもっと他にあるし。
あとファミレスで小河と相席した際、「さかいさんはなんか夢とか目標ないんですか?」と興味津々に聞いてくる小河に対して言葉を詰まらせる場面がある。ようやく言葉出したかと思ったら「菜園?」というこの語彙力のなさ。ここに全部詰まっている。
スマホ依存の若者に陥りやすい特徴が風刺として「さかい」という一人の人間に包まれているようで一人の若者として共感せざるを得なかった。
②小河(唐田えりか)=声をあげているようであげられていない傍観者の象徴
こいつが一番人間していると僕は思っている。この小河がかなりキーワードを作中で言っている。それが「意思を持って、行動する」。
ただ同じ作業の繰り返し、そこに本人の思考など一切挟む余地がなく決められたマニュアルで動く大人たちに、専門学生という大人になりきれていない立場から物を言う立ち回りをしている。
世界観に真っ向から反抗するキャラだったのだが、他のキャラとそんなに大差ないくらいこのキャラクターも「若者」している。
それは「見て見ぬふりをしていたから」である。
これに関しては多分反論あると思う。アンチフードロスおばさん店員が解雇された際も、異を唱えたり、さっきも話したさかいの狩猟民族に回帰している発言にも「あんまりそういうこと言わない方が良いですよ」と言っているし。
でも、なんで専門学校で生徒が髪切ってたマネキンの頭を落としている先生を見て動かなかったの?
なんでファミレスでばかすか殴っているシェフに気づかないの?
ここに「最近の人間としての面白味」が凝縮されていると思う。
言っていることとやっていることの矛盾。口では「私は自分の考えがある」と言っているけど、結局群衆とムーブが一緒。
本音と建前という言葉があるくらい人間は言っていること考えていること、やっていることがバラバラな生き物だからこいつが一番人間していたね。
③室田(くるま)=不幸に群がる若者の象徴
こいつが一番キモい。一番キモいし一番わかりやすいから手短に。
店長が自殺した際、「ねえ、どうやって死んだの??」とさかいに聞くところ。キッシュ屋が閉店したとき店の前で写真を撮ろうというところ。
若者と言うよりもうネット民だよね。キッシュ屋の店主も室田いるの知っていて落ちたんだと思うよ。
④オーナー(西村まさ彦)=マニュアルを重んじる老害の象徴
もう人間やめているよね。マニュアル通りを徹底しすぎて自分がマニュアルだといわんばかりにみんなをかたっぱしから殺しちゃったもんね。
ずっと根拠なく~してくださいと言っているんだよね。
オーナーは、後半から来た新人(名前忘れた)が「またのお越しをお待ちしております」ではなく、「またのご利用をお待ちしております」というのが許せなかったのだがその新人に説教するときそれしかいわなくて根拠を踏まえて話していないんだよね。それじゃあ誰も何も納得しないよ?というね。そういうところがただ怒声で相手に物言う老害の特徴として反映されていると思っている。だいぶ主観的だけど。
あと、他人に興味がなさすぎる。
店長が死んでも、だれが何を話そうとも全く関心を持たない。何を言うかと思ったら「補充しといてください」の一点張り。僕が一番怖いなと思ったのはこういうところだと思う。観ていてぞわっとした。
その他
ここから適当になります。あとこじつけです。
店長=相手からの何気ない言葉で傷ついて自殺する人間の象徴
これホント最近の自殺の原因としてあると思う。寿司屋で辞める大学生バイトが言った「店長、金ないじゃないですか」とか。さかいが店長の作品見ていった「いそう」とか。そういう何気ない言葉が澱のように積み重なり自死に至ったんだと思う。
辞めた大学生バイト=ノンデリな若者の象徴
最近ノンデリの若者多いから省略。
またのご利用お待ちしておりますニキ=人の話を聞けない若者の象徴
ここまで描くんだと驚かされたキャラクター。オーナーに「またのお越しをお待ちしております、な」といわれたとき涙を流して反省したと思ったらそのあと「またのご利用お待ちしております」というこのムーブに考えさせられるものがあった。相手のトーンに委縮するだけで相手の意図を読み取ろうとしていない若者の嫌なところをよく描いている。まあでも串刺されておかしくないことしている自覚は持とう。
で、ここまで言ったんだけどこの作品の何がひどいって「メッセージ言うだけ」なんだよね。
「こういう側面があるよね」ってだけで、じゃあこの状況を打破するためにはどうすればいいの?という希望が全く描かれていない。
それこそ、この監督らしさともいえる。
現にこの人の過去作『VOID』も救いようがないし、CMってどこまでいっても現状提起しかできないし。
だけど「これを観た貴方はどうする?」っていうなげやりなスタンスはこの映画のラストに即していて余韻と絶望に浸れた。
総評
みんな病んでるね!!!
何を言いたいかと言うとそんな感じです。
結局こんなにつらつらと気持ちよさげに書いた僕でも、解決策はわからない。ありきたりなこというと「少しでも自分の現状を顧みて、他者に関心を持つこと」が大事なんじゃないかなと思う。
これ、東京で見たんだけど、周りがみんなエンドロール後無表情で劇場からぞろぞろ出てったことに恐怖を覚えた。フラッシュモブか何かだと思った。アメリカだと球場とかで映画を自分の体で表現して宣伝する文化があるとかないとか。
『SMILE』の宣伝で球場にずっと笑顔の女性が立ち尽くす宣伝もあったっていうしそのたぐいかと思ったよ。
過去作『VOID』も是非。






